情報誌「ネルシス」 vol.7 2006

P-22 [インタビュー]艾未未―「北京は魅力のない都市だ」
P-26 北京の過去、現在、未来が一望できる「北京市計画展覧館」

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目次
激動の中国に立ち会う
方振寧 ファンツェンニン
1955年中国南京生まれ。アーティスト、文化ジャーナリスト。82年国立北京中央美術学院卒業。88年来日、東京、横浜、福岡、埼玉などにパブリックアート作品がある。現在は日本と中国の両方に拠点を置き、主に雑誌やウェブで現代文化の報道・評論を行っている。
北京から逃れて日本へ
私は1988年から15年ほど日本に住んでいました。北京から日本に引っ越すときは、すべての荷物を持ってきました。それは中国に二度と戻りたくないという気持ちからでした。天安門事件(1989年)の前でしたが、中国が迎える混乱を予測していたのです。
 日本の女性と結婚して、現在、国籍は日本です。日本では、日本の現代美術や建築について日本や中国の雑誌に紹介してきました。また、そういった評論活動以外にもアーティストとして作品制作を行っていました。95年に横浜美術館のギャラリーで個展をやって以来、横浜市上大岡の再開発のアートプロジェクト、博多リバレインの企画でホテルオークラ福岡の換気塔に漢字を使ったアート、大森駅、埼玉大学に光の作品などを手がけました。日本でバブルがはじけたあとは、次第に
パブリックアートの仕事が減っていきました。
 私は日本でいうところの芸大にあたる国立北京中央美術学院出身です。ここで版画を専攻していました。本当は清華大学の建築学科で建築を勉強したかったのですが、数学が得意ではなかったのであきらめました。日本に行った際、安藤忠雄の本で「光の教会」を見てショックを受けました。建築とアートは近いと。それ以来、建築展を見て回りました。日本にいたことで世界中の最先端の情報に触れ、また中国に情報提供してきました。六本木ヒルズを最初に中国のメディアに紹介したのは私です。
北京が文化の中心になる予感
2000年ごろから北京と行ったり来たりしていましたが、最近は北京にいる時間が長くなっています。その理由は、これから北京は
世界のアート、文化交流の中心になっていくと思われるからです。同時に実際、中国での仕事も増えてきています。
 2001年のヴェネツィア建築ビエンナーレで初めて中国の建築が紹介されました。初めて中国人の建築家の名前が出てきたのです。それが張永和(Yung Ho Chang)でした。美術、映画、文学、音楽に比べて中国の建築の発展は遅れていましたが、ようやく「中国の建築の時代が来る」と感じたのです。
 以来、建築ビエンナーレには毎年参加しています。2003年には「万里の長城プロジェクト」でSOHO中国が受賞しています。SOHO中国の張欣女史と潘石屹氏はたくさんのジャーナリストを招待して取材させています。以前、今はない東武美術館(1992年オープン、2000年閉館)でアジアの建築家たちを集めた建築展が行われ、そのオープニングパーティで張欣女史に会いました。

彼女はこのとき、「私は建築をコレクションしたい」と言ったのです。これはそれまでの中国人の発想ではないと思いました。これこそが次代を担うチャイナパワーだと直感したのです。
世界から注目される中国
1996年、TNプローブで初めてレム・コールハース展を見て、これからアジアにレム・コールハース旋風が巻き起こる予感がしました。中国人で彼の名前を知っている人はいませんでしたが、ハーバード大学ではすでに中国建築の研究チームをつくっていたようです。そして2002年、中国中央電視台(CCTV)のコンペでレム・コールハースがみごと1等をとりました。
 とにかく、オランダの建築家がこれほど中国に注目しているのに、私はあまり中国が好きではなかったことを反省しました。しかしSOHO中国などの動きをみると、これから力を増してくると思っています。経済のデータから一目瞭然です。世界から資金が集まってきています。日本の株が
上がらないのも、ヨーロッパの投資家たちが中国に投資しているからです。
歴史上なかった都市の改変を目撃する
私は最近「中国に投資するということは世界の未来に投資することだ」と言っています。先日、イギリスのオークションでエリザベス女王の所有品を、予想価格の5倍で中国人が落札したそうです。今年秋のサザビーズのオークションでは、モディリアーニの絵を買いたいという中国人が出てきているそうです。これまで自国の書や水墨画などが中心でしたが、いよいよヨーロッパ絵画に触手を伸ばし始めています。文化大革命ですべて破壊されたドン底から這い上がっているのが今です。中国人は表現が率直で、アメリカ人に似ています。オークションでも画商など頼まずに自分で顔を出して自分でやります。最初はルールを知らなくても、すぐにマスターします。中国人はすべてのルールを信用していません。自分でルールをつくりたいのです。
 まさに中国はバブルです。私は中国がまずアートビジネスの中心になり、その後、アートそのものの中心になるとにらんでいます。実際、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)が開催する現代美術の最も大きな展覧会を中国で準備しているようです。 中国の分母は大きいので、バブルがはじけるまでには日本の何倍も長く続くと思っています。これは日本もそうでしたよね。いま中国のCBD(中央ビジネス区)はかつてのニューヨークのマンハッタンのようになるでしょう。北京では、2008年まで60プロジェクトが同時に動いています。スケールや資金力において人類の都市史ではなかった規模の変化です。中国らしい大量の自転車が行き交う風景が、あっという間に車に取って代わられましたね。政府はようやく環境問題の視点から反省して、自転車専用道路をつくるように呼びかけています。この歴史上初めて直面する都市の変化を、ここに身をおいて体感するつもりです。
(談)

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