
2006年10月1日、ユニバーサルデザイン手すり『サポートレールUD』が発売されました。多くの人が安心して使えるカタチをめざしてつくられた『サポートレールUD』は、“徹底して使い手の視点に立つ”という発想から生まれました。開発を担当した、商品本部環境開発部の西川圭一と大橋幸治の話を紹介します。


秋が深まる長野県駒ケ根市。TOEXの開発部隊が所属する「中央研究所」は、豊かな自然環境に囲まれています。
企画担当 西川圭一
「普段は駒ケ根で生活していますが、企画という仕事柄、本社のある東京へは月に2〜3度上京しています。先日営業スタッフと食事した際、ハタハタの頭を残して驚かれました。普段はししゃもの頭ですら食べないんですけどね」
設計担当 大橋幸治
「駒ケ根に移り住んで3年になります。本当に美しい場所で、開発に行き詰まった時は、景色を眺めてリフレッシュしています。冬は趣味のスノーボードを楽しんでます」
手すりは誰のもの?疑問から全てはスタート
大橋
『サポートレールUD』の開発のきっかけは、人気商品である『サポートレール』の売り上げの伸びが低迷してきたことからでした。新たな定番商品となる手すりを作るにあたり、まずは手すりの現状を知ろうと、二人で東京、名古屋、大阪などの都市部を中心として30ヶ所以上の現場を見て回りました。
世の中にはさまざまな手すりがあるが、本当に使いやすい手すりの姿とは・・・西川
公共の場から商業施設まで、あらゆる手すりを調べました。デザインに凝った高価なものから、つかまる所があればいいという程度のものまで、実にさまざまで、なかには途中で途切れていたり、ビーム(持ち手)の先に障害物があってぶつかりそうになるものまでありました。多くの現場の実状をこの目で見て感じたことは、“一体、手すりは誰のためのものか”ということでした。
ユーザーアンケートから、一般的に手すりが使われていることは分かっていましたが、これまでの手すりは、切実に必要とする高齢者や障害者の声を反映してはいなかったと感じます。本当に必要としている人にとって使いやすく、また誰にとっても使いやすい手すりが本来あるべき姿なのではないか。
ふたつの異なる手すりの繋ぎめが断絶されていて、危険な例
ビームを伝っていくと、障害物に手や足がぶつかる可能性のある例そんな思いから、屋外の既設手すりの問題点を検証する、現場での「フィールドリサーチ」と、様々な年代層の健常者をはじめ、視覚障害者、歩行障害者、車椅子利用者の方々を招いて、手すりの使用感を調査する「ユーザー評価会」というステップで開発を進めてきました。
卵形の気持ち良さを形に
西川
2006年2月に行ったユーザー評価会では、プロトタイプの『サポートレールUD』の他、一般的なステンレス製の丸形ビームと、アルミ製の楕円形ビームの3つの手すりを用意しました。
これら3つの手すりを使って、実際ユーザーに歩いて試していただいた結果、持ったときの感触やつかまりやすさから、卵形ビームのプロトタイプが最も“気持ちが良く握りやすい”と高い評価を得ました。
26名の多様なユーザーをTOEX関東支店に招いて、丸3日かけて調査しました大橋
フィールドリサーチから生まれたデザイン案について、ユニバーサルデザイン性やフォルムの美しさを再現するために、形状をコンマ数ミリ単位まで突き詰めました。他の製品では見過ごされるような細部にまで、徹底してユニバーサルデザインを配慮して、プロトタイプを作りました。
さらにユーザー評価会で提案された改良点を盛り込んでプロトタイプの形状、構造を再検討し、最終的な製品の形にまとめ上げました。通常、プロトタイプを世に出せる実際の「製品」として成立させるには、さまざまな基準をクリアしていかなければなりません。
当社には独自の品質基準があり、強度基準もそのひとつです。強度基準をクリアするために形状を変更することもありますが、今回はフィールドリサーチとユーザー評価会の声を反映させたデザインであるため、その形をくずすことは極力避けたかった。そのため製品化にはかなり苦労しました。
デザイン検討段階の発泡スチロールのモデル
量産検討段階の試作品ユーザーの声を形に
大橋
ユーザー評価会では、さまざまな発見がありました。そのひとつは、2段式ビームの下段の位置です。プロトタイプでは支柱に対して上段より15ミリ外側(歩行者側)に設定されていましたが、それよりもさらに外側にあった方が上段のビームがじゃまにならずに握りやすいという声があがりました。そこで25ミリ外側に設定し直したのです。
たった10ミリの改良で、スムーズな歩行を実現した「フロント2段ビーム」西川
障害を持った方のほうが、健常者が気がつかないちょっとした商品の“使いにくさ”を敏感に感じ取れると実感しました。『サポートレールUD』で端部にグリップを設けたのは、視覚障害者が手すりの終わりで感じる不安感を解消するためです。
手すりの終わりを伝えるサインが新しい「エンドグリップ」また設置の際に、片側だけでなく両側に手すりを設置するよう推奨しているのは、半身麻痺の方にとって麻痺側に手すりがあっても使うことができず、補助の意味をなさなくなってしまうからです。
杖を利用される人、片側身体の不自由な人には、手すりの両側設置は必須ビーム部分の素材にもユーザーの声が大いに生かされています。当初は金属で検討していたのですが、樹脂で作っていた試作品に触れたユーザーから「金属は冷たくて持つのがつらいが、これなら気にならない」という好反応を得て、樹脂カバーをそのまま採用することになったのです。
ユーザーの感触から採用が決まった、「樹脂ビーム」これからも、ユニバーサルデザイン
大橋
微妙な形状や、用途の異なる素材を用いて、生産ラインにのせられるよう製品化することは簡単ではありません。通常の商品よりも長い開発期間がかかりましたが、今までの発想から一歩踏み込み、こだわりを持って開発することで、これまでにない優しい商品を作り出せたと自負しています。
『サポートレールUD』は、開発マンが言葉を尽くしても語り切れない、そんな思い入れの深い商品なんです。発売後の今は、利用される方々に実際に商品に触れてもらい、その感想をまた聞きたいですね。
西川
今後は手すりだけでなく、さまざまな商品にユニバーサルデザインを取り入れて開発していきたいと考えています。ちょっとした気遣いを加えることで、形が優しくなり、使い勝手も大きく変わってきます。目に見えない配慮、人とのふれあいを大切にする、そういう視点で商品づくりを進めていきたいと考えています。
